ここで、少し照準を変えて水、特に飲料水に関して世の関心となっている飲み水と塩素消毒の関係について見ていきたいと思う。
A 塩素が入っているから安心、塩素が無くなっているから不安との言及が多いよう
だ。特に災害の水備蓄に関して。
B 塩素が入っているから危険・不安という側面もある。
発がん物質の発生に関連(後述)
C 塩素が入ってもその消毒効果がないという場面もあるようだ。
クリプトスポリジウム症に関連(後述)
と、単純視はできない。
参考となる水、水質に関する本はとても多い。
水道、水処理に関するプロ、水質に関心を寄せるアマチュアが多いし当然の帰結かもしれない。
当方も次のような書籍(基礎的なもの)を参考・引用しており、感謝御礼申し上げたい。また、ユーチューブなどいくら見ても出てこず、改めて書籍等文字媒体の意義を認識するところだ。
参考資料
消毒とは
(前掲資料①)
消毒とは 病原性微生物を選択的に死滅させることをいう。
下水やし尿処理水中の病原性微生物は大腸菌群数で代表され、公共用水域への排出基準としては、3000個/mL以下にすることが規定されている。このため、処理場の最終段階では消毒設備が設置されている。
最も一般的な消毒剤は塩素であるが(他に紫外線やオゾンによるものがある)、消毒用塩素剤として最も用いられているのは次亜塩素酸ソーダである。
同著(①)は次亜塩素溶液による消毒の特徴として次のように記述する。
現場の安全管理 重要
放流先の水生生物への影響 有
水道法による規制
(前掲②)
蛇口での残留塩素が遊離塩素の場合、0.1mg/L以上
結合塩素の場合、0.4mg/L以上
日本で塩素消毒が行われたのは1920年代から。終戦後米国の指導で水道水に常時塩素注入することとなった。
問題点 消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)とトリハロメタン
消毒剤 が原水中の有機化合物と反応してトリハロメタン(注2)など発がん性の疑いのある有機化合物を生成する。 ⇓
フミン質などの前駆物質(注1)
注1
フミン質とは
植物などが微生物によって分解されるときの最終生成物で,難分解性の高分子化合物の総称である。腐植物質ともいう。
前駆物質とは
着目する生成物の前の段階にある一連の物質をさすが、一般には一つ前の段階の物質を指す。主要な生体物質の生合成過程について言うことが多い。
(前掲①)
注2
トリハロメタンとは
メタンを構成する4個の原子のうち3個がハロゲン原子である塩素や臭素に置換した化合物のこと。
このうち、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモククロロメタン、ブロモホルムの4物質及び総トリハロメタンについて、水道法による水質基準定められている。
トリハロメタンを最初に発見したのは1972年オランダ水道局
ライン川の水からクロロホルムを測定し、その原因が河川水を塩素処理することによって生成することを究明した。
(前掲⓶)
問題点 寄生原虫クリプトスポリジウムには塩素など消毒剤が効かない
病原性微生物の一つクリプトスポリジウムという小腸に寄生する原虫で起きる病気がクリプトスポリジウム症で激しい水様性の下痢と腹痛を起こす。乳幼児や高齢者では重篤化、長期化することがある。
この原虫による集団感染は1949年に神奈川県平塚市で461人、1996年に埼玉県越生町で8812人が発症している。
対策は「検査」と「ろ過(急速・緩速ろ過、膜ろ過)」があげられている。消毒とろ過が別なものであることを気づかせせてくれる。安易に薬に頼るなという素朴な発想は今でも有効に思う。