普通家を建てるというと、いや、半分世捨て人の小屋暮らし用住まいづくりでも何らかのコンクリート系の基礎を設け、その上に木、鉄骨、単管パイプの柱やツーバイ材を建て,屋根をふくということになりますが本書はそうしません。
よくて建設現場などで見られる仮設プレハブハウスの据え置き(ユニック車によれば時間的には最短)、最も手軽なもので農業用ビニルハウスの組み立てを想定し、そのうち大型自動車用テントを活用し、順次強度・居住性を向上するという方法を選択することにしました。そのわけはつぎのとおりです。
1 建設技術・建設工具費用の可及的回避、削減
小さな小屋を数棟作った経験から言うと小さくても小屋づくりは慣れない人にはそんなに簡単ではありません。一定の技術的知識・経験のほかに必要な電動工具、大工道具をそろえるにはそれなりの費用が掛かります。手動の大工道具のほか必要な電動道具を挙げると丸ノコ、(スライド丸鋸)、ジグソー、電動ドリルにインパクトドリルがあり、計7~10万は必要です。
電気が不通の場合は何らかの発電装置(太陽光発電、発電機)や蓄電地も必要になります。
2 時間短縮と経費削減
通常の家づくりは何より時間がかかります。建設現場に通えないならその期間、アパートを借りたり、現地にテントを張って生活することになります。専念しても数か月、長くなると数年かかってしまいます。災害避難の場合それはナンセンスということになります。
3 法令順守とトラブル回避の容易性
また小屋暮らし希望の方が作る小屋は建築に関する法令を踏襲せず(要建築確認の点)、当局のお叱りを受け、撤去・建て替えを要することになる人もいるようです。
土地への定着性が希薄になるほど不動産としての性格は希薄となり法令の縛りも緩和されてきます。車輪のついたモバイルハウスやテント小屋はこの点で有利だし仮に問題が発生したならば分解・移設が簡単なことは論を待ちません。
トラブルは法規制だけではありません。退職金を費やしてこぎれいな平屋を建てたり古民家を購入して憧れの田舎暮らしを始めた還暦世代がご近所とうまくいかず、撤退するというケースもあるようです。その安くない投下資本はどぶに捨てることになってしまいます。
50万円の限界分譲地と数万円のテントハウスなら仮にそうなっても軽傷で済みます。
4 地震による圧死事故回避
日本画家東山魁夷は親しかった川端康成から“京都らしい町家の風景がどんどん失
われている。今のうちにその風景を描いておくべき”と言われ、美しい日本瓦の民家
を描いています。其れからずいぶん経ち、今、京都を見ても寺社を除いてそう言った
風景はほとんど見られません。
しかし元旦の能登半島地震でそのかっての京都のような美しい屋根の姿がこれほど
多く残っていたことに、そしてそれが下の居住者にむごい結果をもたらしたことに愕
然としました。
山陽新聞より 1/5
1/8読売新聞より引用
ここまで来たらその屋根風景はむしろ避けるべきということになってしまうでしょ
う。そして太い梁に価値を見出す古民家ブームも再検討すべきことになるでしょう。
避難の人が逃げ込んだ農業用ビニールハウスは軽量です。ビニールを張った細いパイ
プは曲がり、変形しても即、命を奪うことにはなりにくいものです。
とにかく落下するような重量物は頭上におきたくないと考えます。
5 家を建てることのむなしさ-鴨長明の住居感-
教科書に出てくる方丈記は冒頭部分があまりに目立っていますが、全体を眺めると
災害にかかわるところ、住居へのこだわりとその自己の心情への嫌悪、これらを取り
巻き、そこに流れる無常観といったものを感じます。
考えてみれば牛に運ばせ、組み立てた方丈庵も昔のテント小屋です。